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映画、ときどきその他の鑑賞ログ

ディクシー・チックス/シャラップ・アンド・シング!

 「黙って歌ってろ」…歌手なんてあーだこーだ余計なこと言わずに歌うたってりゃいいんだよ、って感じかと思うんですけども、2003年アメリカのイラク攻撃に際して公演中のロンドンでのステージMCで「大統領と同郷であることが恥ずかしい」と発言したばかりに、保守層、というか彼女たちのファン層であったカントリーミュージックを聴いていた層を中心に総すかんを喰らい、CD不買運動やらカントリー系のラジオ局から追放同然の仕打ちを受けた女性カントリー・トリオ、ディクシー・チックスが2005年にアルバム「Taking the long way」を発表し再びツアーでロンドンのステージに立つまでを追ったドキュメンタリー。

 チックスのミュージシャンとしての知名度が日本でどれぐらいあるかは分からないけれど、たぶんこの作品に収められている事件のことをご記憶の方はきっと多いんじゃないでしょうか。

 劇中の関係者のインタビューにも出てくるんですけれど開戦当時に公の場できっぱり不支持を表明したミュージシャンは何も彼女たちだけではなかったわけですが、そのCD不買運動やらラジオ局独自のオンエア自粛もしくは拒否コメントや、はたまたファンが購入したCDを持ち寄ってブルドーザーか何かで踏みつぶしてる映像が流れるようなマネを大々的にされたのは彼女たちだけとのこと。それはやっぱし彼女たちのジャンルが“アメリカの心を歌うべき”カントリーだってことが多分に影響してるんでしょうね。

 タイトルになってる「Shut up & sing」というのは劇中に登場するインタビューの中でラジオ局の人だったか音楽評論家が語る言葉。だけどいつの時代にもポリティカルソングだったりそういう態度でもって臨んでるミュージシャンはボブ・ディランにしろいたわけで、そもそもなんらかのメッセージを伝えようとシンガーソングライターという人たちは歌うんでしょ? 彼女たちはそれまで自分で曲を書いていなかったようで、だから途中で「自分で曲もかけないような小娘のくせに」みたいな揶揄するような言葉を吐いてバッシング側に回ったいかにも南部野郎的カントリーシンガーのトビー・キースみたいなのもいるわけですけども。でもカントリー歌手は黙ってアメリカすばらしい~故郷の農場すてきーとか歌ってればいいんだ、ってのはなにも分かってないというかアーティストとしてのカントリーシンガーに対する逆差別にもとれるんですが、そういうの自分で気がつかないものなのか、どうなんでしょうねえ。

 問題の発言がされた当時というのは世界の各地で反戦デモが繰り広げられていた頃。特にヨーロッパのデモはアメリカのそれとは比べものにならないくらい大々的だったし、コンサート当日のロンドンの街でもデモは行われていて、当初のナタリー(vo)のエクスキューズでは「ちょっと勢いで口が滑っちゃったの」みたいな発言をしているし、ほかの二人もそこまで深刻に、というかすごいことになったと受け止めている様子はさほどない気もします。でも本国で発言報道がされるやいなやそのリアクションの大きさにメンバーたちもこれは大ごとだ気がつき一応謝罪声明を出すなどの姿勢もみせるんだけれど焼け石に水と悟った時…ほとんど徹底抗戦の構えを見せるところがあっぱれというかアメリカ的、というか。自分たちは間違ったことは発言していないんだから信念を持って行動しようと、その通りの態度にでる。

 ことは彼女たちだけの問題ではなかったし、既に組まれたツアー中止など活動を休止したらレーベルやツアースタッフはじめどれだけ多くのひとに迷惑かけるか分からないからきっちり前を向いて仕事しないと、っていうのは口で言うのはたやすいけど並大抵の精神力じゃできないよなと感心。もちろん登場するマネージャーやレコード会社の広報チームやら彼らを商品として売り出している方はきっちり戦略対策も取ってるし(騒動で当て込んでる部分もあるのかもしれないけれど、キラーコンテンツとしての彼女たちの商品価値を守ろうとしてるところも興味深し)、そんな強気な彼女たちだって家に帰れば普通にママさんしたりして家族に支えられているのもなんとなく見てほっとしないでもなし。

 しかしメンバーの家が荒らされたニュースは読んだ記憶がありますが、暗殺予告まで来ていたとは知りませんでした。しかしこのドキュメンタリーだって最初から意図して取られたものじゃなかったとは思うんですが、ここまでいろいろありすぎるとすごいです。

 これまでこの騒動もなんとなくニュースとしてくらいしか興味を持っていなかったのだけれど、このときレコーディングに入っていた2005年リリースの「Taking the long way」もちゃんと聴いてみたいと思いました。もし公開されたらお勧めしたい1作。あの当時とは風向きが変わってきた最近、彼女たちがまた何かの形で大々的に表舞台に立つ日も近いのでしょうかね?

(追記:そして「Taking the long way」が今年(2006-7年度)のグラミー賞は総なめというのも記憶に新しいところ。いいアルバムには違いないのですが、世論もなんとも極端というか。それだけ状況変わったということかも知れませんけどもね)


原題:Shut up & sing! 2006年製作(ドキュメンタリー)
監督:バーバラ・コプル&セシリア・ペック
@第19回東京国際映画祭 シネマ・バイブレーション部門上映