任侠の家に生まれながらも天賦の才を認められ上方歌舞伎の家に弟子として引き取られた美貌の青年と一門宗家の御曹司として生まれた青年が互いに切磋琢磨するという吉田修一の原作映画化作品。最初は鑑賞予定になかったのだけれど、歌舞伎評などよく拝見しているかたが公開直後早々に絶賛していたので、それなら、と行ってみた。
3時間超えの長尺も間延びすることなく集中してみてしまった。自分も歌舞伎は年に何度か観に行くほうなので少しだけ馴染みはあるつもりだったけれど、観ながら思ったのは「たぶん松竹が配給なり製作なりに関わっていたならここまでは描けなかったのでは…」ってことだった、僭越ながら。歌舞伎の家に生まれて本作で一門の女将を演じている寺島しのぶさんや、原作のオーディオブックで読み手を務めている、しのぶさんの実弟で歌舞伎役者の尾上菊之助(現八代目菊五郎)さんが「実際にはまず有り得ない」と断言する(一般家庭の出身でいわゆる部屋子である)喜久雄の出世ぶりはおいといても、それらにまつわる役者のスキャンダラスな私生活の一面や(昔は芸能ゴシップニュースでももっと見かけた気がする)、また女将がこだわる血筋優先の考え方にしてもおそらくリアルに生臭いと思うので、実際の歌舞伎興行に関わっている松竹が絡んでいたら何かしらの余計な先回り自粛が働いてもおかしくなかったのではと思ったり。だから東宝が配給で良かったと思う(製作はソニー)。
あと、主演の二人の歌舞伎役者としての芝居が本当にびっくりするほどよかった。粗探しをしようと思えば突っつけるところもあるのだろうけれど、出し物を演じる歌舞伎役者を、普通の役者の二人が劇中の芝居をしながら演じているのだから、お稽古の準備期間1年半とかであそこまでできるのは本当に感嘆ものだと思う。本職の歌舞伎役者さんたちが観たらどう見えるのかな?と思っていたけれど、團十郎さんはじめ多くの歌舞伎役者さんたちが実際に劇場でこの作品を見て絶賛を送っていたことに、やっぱりそうなんだなあ、とほっとしたのだった。
原作は未読だけど、映画脚本には当然端折られているエピソードもあるそうな。でも、個人的には今回の作品は非常に楽しめたし、もっと多く撮られていたという舞台シーンも可能であれば完全版が観たい。特に田中泯さんの「鷺娘」とか。唯一いただけなかったのは喜久雄の老けメイクぐらいで(吉沢くんは渋谷栄一の時も老け顔がイマイチと思ってみていた、ごめん)あとは言う事無し。間違いなく今年を代表する一本だろうし、実際本作のヒットによって歌舞伎の公演にも新規の観客が増えているというのだから、こんなに喜ばしい相乗効果はないだろう。
監督:李 相日 2025年製作
出演:吉沢亮、横浜流星、渡辺謙、寺島しのぶ、田中泯、高畑充希、永瀬正敏、
2025.6.10 鑑賞 @109シネマズ二子玉川