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クレイジー・ハート

  かつての人気カントリーシンガーで、いまはレコードの再販と小さなライブ活動で食いつないでいるバッド・ブレイクは、酒瓶片手に愛車のおんぼろワゴンを運転して自力でどさ周りを続ける毎日だ。寂れた生活から浮上するには新曲を書くか、かつてのバックバンドの一員で今は人気シンガーとして活躍するトニー・スウィートとコラボでもするしかないと始終マネージャーにドヤされてもバッドはどこ吹く風で気ままな生活を続けている。だがある日サンタフェのクラブに取材にやってきた記者のジーンと出会って特別な気持ちを抱くようになり、また時を同じくして近隣の会場で行われていたトミーの前座を強引に引き受けさせられたことから、変化が訪れる。

 バッドは酒と女には目のないひと昔前の典型的なロッカータイプのミュージシャン。脚光を浴びるような舞台からは一線も二線もひいていて、落ちぶれた生活と自覚もないわけではないのにそれを受け入れていて、それもまた人生かなと割り切ってる感すらある。車を飛ばして出かけた先がどんな場所だろうが客が少なかろうが、どんなにへべれけに酔っぱらっていても、一晩に何度も歌わされるのはかったりぃと思っても、それでも翌日も移動してステージに立つのは、そういう生活しか知らないからという以前に、根っから歌が好きだから。移動先のモーテルにつくなり素っ裸で酒瓶抱えて居眠りしたり、悪態付きながらもちゃんとステージをこなしたり、成功したトミーの話は気が進まないしまして人気に便乗して稼ぎたくはないと遠回しに遠ざけるバッドはどこまでも憎めない愛すべきキャラ。

 加えて周りの人物も口やかましいマネージャーや、かつての恩師に再び脚光を当ててやろうと無邪気なまでに手をさしのべようとするトミー、自分の店の景気も悪いのに常連客であるバッドの禁酒に一肌脱ぐバーのマスター、それからそんなしがないシンガーと恋に落ちるにはあまりにはまりすぎて、突然の別れの決断すらも逆にあっさり納得してしまえそうなシングルマザーのジーン…

…と基本的に性根の悪いイヤなヤツ、ガツガツした人物の出てこないこぢんまりした作品は、オープニングの広々した空の俯瞰から最後の空への引き画面まで、耳心地よいカントリーの調べと共に観ていてどこかほっとするような、劇中の感情的なさざ波すらも穏やかなものを感じます。

 おそらく「カントリーシンガーが題材」とうたってしまうと日本じゃうけない懸念からなんだろうけれど、女性記者とのロマンス、その結果生まれた「傷ついて壊れた心」で売っている感じは受けますが、酸いも甘いも知っている、なのにどこか悟り切れてない一人の男の生き方がメインなのだし、恋愛もの路線を強調することもないような。

 オスカー受賞のジェフ・ブリッジスはこれ以前にも賞に値するような作品はいくつもあったと思うけれど、この作品での受賞に関してははまり役というよりも役得ともいえそうな。もうちょっと前ならこういう役ってクリス・クリストファーソンなんか同じ路線でばっちりはまりそうな気はするんだけど、でもジェフのほうが人好きのする感じがあるかもしれないですね。ロン毛の髪の毛なでつけて結わえたコリン・ファレルもだけど、歌のうまさは折り紙付き。

原題:Crazy Heart 監督:スコット・クーパー 2009年製作
出演:ジェフ・ブリッジス、マギー・ジレンホール、コリン・ファレルロバート・デュバル
@シャンテシネ