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母なる自然

  未来を託そうとした愛する人や協力者を死や裏切りで失うトランスたちの幸せ探しの物語。

 サルバトーレことデジデリオは性転換美女。息子が性転換したことをまだ知らない父親とは仲がこじれているけれど、彼女のまわりは同僚のダンサーたちや、展開中の議員選でトランセクシュアルたちの人権擁護を訴えている補者ステファノの支援活動に力を注ぐ劇団プロデューサーのマッシミーノ、海辺のアパートで近所の子供たちの世話をしているエウローパらトランス仲間たちで賑わっている。

 生計を立てるため時には街角に立つこともあるデジデリオだが、今は恋に夢中だ。相手はガソリンスタンド勤めのバイク青年アンドレア。若いころから恋愛ではトラブルを起こしてきたデジデリオだけれど、アンドレアの優しさに包まれて今度の恋は本物だと確信していた。ある日デジデリオの両親のアパートに新しい借り主として結婚を控えたマリアという娘がやって来るが、なんと彼女の結婚相手というのはアンドレアその人。信じていた彼に裏切られ激しく傷つくデジデリオ。また彼女のまわりでもマッシミーノは町のゴロツキに芝居のジャマをされひどい嫌がらせに傷つく。そんな頃、やはり嫌がらせで電気さえ止められるという苦しい生活に耐えきれず娼館でアルバイトをしようとしたエウローパはすんでのところでアホらしさに嫌気がさし、トランスというだけで虐げられる生活から自立を図ろうとナポリ郊外のベスビオ山近くの農場に移り住んで仲間たちと農業&カウンセリングを始める。農場の名前は「母なる自然」。

さまざまな苦難がやってくる中で彼女たちは幸せをつかむことができるのか

 ナポリといえば南イタリア。なんとなく保守的なのかなーというイメージがあったりする。トランスの人たちに対する偏見云々というのは別にそこに限った話しでもないでしょうけれど、性差を越えた彼女たちが新しい人生を歩み出す場所がかつて炎で多くの命を飲み込んだベスビオ火山の麓というのはなかなかよいシチュエーションに思います。

 チラシではナポリのアルモドバルとあったけれど、そこまでシニカルというか達観していないようにも思うし、最初はどっちかっていうと派手ぐあいで『プリシラ』路線なのかと思ったけれどそこまではじけもいないし、少々微妙な作品ではありますけども、おもしろかったです。

 デジデリオ役を女性が演じているということに関しては座談会の時も話題に上っていて、演じたマリア・ピア・カルツォーネさんがいうには、「女性以上に女性の恋心を抱くトランス」を見つけることが難しかったから、自分に白羽の矢がたったというようなことをおっしゃっていたけれど、それはしょうがなかったのかなとはいえ、ちょっと微妙。というのは冒頭から彼女が映し出された時には正直言って、本物はあんなきれいな人だったのでこういうのも失礼なんですが、ホントにこの人ってば、本物のトランスさんなのかしら?と思わせた怪しい雰囲気みたいなものが、後半になると丸っきし普通の女の人にしか見えなかったし、…それがストーリーの中でも重要なキモだったとはいえど男の人なり・トランスさんに演じさせたらもっとおもしろかったかも、とも思ったりして。頭の中では『バッド・エデュケーション』の時のガエルくんがビジュアル的にぐるぐる。

 とはいえディスコの場面もかっちょよくとれているし、トランスさんたちの劇も妙だし、前向きでかわいいエウローパおばちゃんもお気に入りキャラで、ヴェネチア映画祭観客賞も納得。愛すべき作品でした。

原題:Mater natura 監督:マッシモ・アンドレイ 2005年製作
出演:マリア・ピア・カルツォーネ、エンツォ・モスカート、ヴラディミール・ルクスリア
イタリア映画祭2006 2006.5.2~7@有楽町朝日ホール