故郷からミュージシャンになるべくニューヨークに出てきたボブ・ディランのrise and 「fall」、ではなくフォークとの決別というかエレキ化に移行するまでの約5年を追った物語。
スコセッシのドキュメンタリー、No Direction Home の前日譚というか、これがあそこにつながるんだなと思いながら観たのだけれど、自然体のままにして才気有り余るディランに関わる人々の悲喜こもごものドラマとしても興味深かった。激動する60年代という時代のなか、どこからともなくふと現れたディランの才能に気づき、彼の活動をバックアップするピート・シーガーやジョーン・バエズが、やがてはディランが自分たちを大きく越えて大衆の心をガッチリと掴みとる様をニューポートフォークフェスで目の当たりにする第1部。そうやって周囲より時代の代弁者的に祀り上げられていくことに抵抗を覚え、窮屈なしがらみから逃れてあくまでも自分のやりたい路線を進もうとするディランを描く第2部といっていいと思うけど、祀り上げた当事者のステージのこちら側と観客側にとってのディランはまさに完全に掌握しきれない、計り知れない存在だったのではと思う。そしてそのことを一番よくわかっていたのはシルヴィーであり、ディランにとって彼女は同じベクトルを持ったひとだったのではないか。だからそう選ばざるをえなかった二人の関係の結末が切ない。
また、マンゴールド監督が以前題材にとりあげたジョニー・キャッシュとディランとの関係はほとんど知らなかったのだけれど、ステージで自分の表現したいものをやれと後押ししながらも同時にきっちり落とし前をつけさせるキャッシュの姿は印象的だった。大人だね。
いい意味得体のしれないディランを演じたシャラメはうまかったし、なにより出演者全員、自身がすべてのシーンを演奏していて、そのうまさにまず驚いた。コロナや俳優組合のスト休業の合間に練習する時間がたっぷりあったというけれど、それにしても絶品。
ちなみに No Direction Home の拙感想はこちら
この時代のディランに関してのドキュメンタリーはやっぱりこれが最高峰だと思う。
